特別編

第三話 抜け殻のような人生の始まり

登場人物紹介 首都高速用語解説

前回までのあらすじ…。
有休の許可が出た日にドラッグストアで精神安定剤を買いました。
広島まで行き覚悟を決めますが、自殺は未遂に終わりました。

特別編とは?
「決断の時」というタイトルで始めることになったこの企画。
一番話したいことまで書くのにかなり時間がかかりそうなので先に書くことにしました。
第三話は久しぶりに更新します。

ほんとに自分が情けない…。
戦国時代の武士のように腹を掻っ捌いて…までとは言わないが、一番楽そうな薬でも死ぬことができなかった。
しばらくうずくまって泣いていた僕に通りかかったサラリーマンが声をかける。
「大丈夫ですか?」
僕は小さくうなずいて立ち上がった。
サラリーマンは心配そうにこちらを見ていたが、同情や心配は今の僕には不必要だった。
ホテルまでの帰り道…。
僕は死ぬ勇気さえも無いダメな人間だ。
どうしたらいいものか?
そもそも今日のホテルの予約をしてあったことに問題があったのでは無いだろうか?
初めから死ぬつもりなど無かったのではないか?
茶番をするために広島まで来たのかお前は?
バカバカバカ…。オレってすげ〜バカ!
何度も自分を責めながら眠りについた。

1997年11月21日(金)曇りのち雨
シングルベッドの上で目が覚める。
目覚めると同時に涙が流れた。
「俺、生きてるじゃん。しょ〜がねえなあ」
ベッドの上で横になっていると学生の頃を思い出し、妙な感覚になった。
黒子さんがどこかで笑っているような気がした。
それは、今の僕を哀れんで笑っているのか、見下したように笑っているのか分からなかった。
でも分かってる。
君をどん底に突き落としたのは僕なのだから、今こうしてその罰を受けるのも当たり前だ。
広島に行こうが天国に行こうが今まで犯してきた数々の罪が許されるはずは無い。
それは分かりきっていることなんだ。
事故った時はさすがに、死んで詫びるしかないな…と思ったんだ。
それで総てを精算しようと思ったんだ。
でも僕は生きている。
深い眠りについたが、僕の体内時計がジリジリ鳴ってこうして目覚め、普通の広島の朝を迎えている。
目覚めたら、天国かどこか別の…僕がまったく知らない場所だったら良かったのに。
でも周りの景色は昨日とさほど変わらない。
とにかく君が生きることを許してくれるなら、僕は生きることにするよ。
昨日までの26年4ヶ月19日の僕は昨日死んだことにする。
昨日までの僕の記憶を総て捨て去ることはできないけど、徐々に僕は新しい僕になるんだ。
名前を変えて、他人になりすまし、このまま広島で生活するのも悪くない。
ま、もうしばらく放浪してから結論を出そうじゃないか。
とにかく頭の中を真っ白にすることにした。
でもそれはとても容易なことじゃない。
人間の記憶というものはよほど強いショックを与えない限り、ゲーム機のリセットボタンのように総てを元に戻したり、消去したりはできない。
なにより自分が忘れても、周りが忘れないだろう。
ホテルのモーニングセットを食べながらそんなことを考えた。
部屋に戻り荷物をデイパックに一揃え入れて受付でチェックアウトを済ませた。
自動扉がグイーン…と開くと、外の空気が入ってきた。
僕は両手を広げ、新鮮な広島の空気を吸い込む。
そして、新しい自分になりたいと願う。
広島が復活の街になってくれることを願う。
ビジネスホテル高田屋の出入口から僕の抜け殻のような人生が始まった。

(あの時の薬…。今では御守です。)

次回予告
僕は今まで広島に何度か来ていますが宮島には行ったことがありませんでした。
とりあえず、今まで行ったことの無い、見たことの無い場所へ行こうと思いました。
放浪はまだ少し続きます。
第四話 宮島とあの人の故郷