誕生編

第四話 地図作り

登場人物紹介 首都高速用語解説

前回までのあらすじ…。
1971年7月2日に生まれた僕。物心ついた時、祖父の会社の2階に住んでいました。

誕生編とは…?
生まれてから卒園するまでのお話しです。

ある日の夜。
隣の祖父の家に両親と遊びに行くと、親戚が来ていた。
祖父の長男の正弘とその正弘の息子で長男:好弘と次男:シンジだ。
この家族は我が家とまったく同じ家族構成で、好弘とは歳も一緒。
僕の弟とシンジの歳も一緒で不思議だ。
どうやったら2年も連続で、同じように二つの家族が子どもを生めるのだろう?
おかげこちらは後年何かと好弘(以後ヨシ君)と比べられることになる。
その予兆はすでに始まっていて、ヨシ君は自分のフルネームを白い紙に書いて見せた。
祖父と祖母は大喜びでわれんばかりの拍手をした。
僕は母に尋ねる。
「僕の名前はどう書くの?」
しかし、母はニコリとするだけで教えてくれない。
まだ漢字を書くのは早すぎると言っているようだった。
だから僕はまだ漢字が書けなかったので悔しい思いをした。
これ以後、僕とヨシ君はしばらくライバル関係になる。
僕は弟とも比べられていて、常に上に立とうとしていたから敵が多かったことになる。
表面上は同盟関係であっても、心の中ではいつ出し抜いてやろうかといつも思っていた。
20時を過ぎると僕はいつも眠っている時間なので、いつのまにか母の膝の上で眠っていた。
鴨居にはそんなに大きくない振り子時計が下がっていて、それが20時になったとき、8回ほどボーン、ボーン…と鳴った。
金色の振り子からは、左右に揺れるたびに赤い豚の鼻の形をした物体がいくつも飛んでくる。
僕はそれを何度も払い除けるが、次から次に飛んでくるのでよけられない。
しまいには怖くて逃げ出した。
それでも赤い豚の鼻はいくつも群れをなして追いかけてくる。
わ〜〜ん怖いよ〜。
はっと目が覚めると振り子時計がチクタク小刻みに揺れているのが見えた。
「豚!豚の鼻が〜〜〜!」
母は「起きたの?」とだけ言う。
僕は「豚の鼻がくる〜!」と叫んだ。
でも母も祖母も祖父もテレビか何かをじっと見ていた。
誰も僕の話を信じてくれない。
「豚の鼻なんだったら〜」
僕の声が聞こえてないようすで相手にされない。
親戚はいつのまにか帰ったらしい。
僕が初めて見た悪夢だった。

自宅に帰り、いつものように天井を見つめる。
相変わらずシミはシミのままだ。
ウィーンウィーンと音がして、天井が黄色く光り始める。
それはとても不気味な音のように聞こえた。
怖くなり、何の音?と聞いてみる。
「道路清掃車だよ。道路をきれいにする車」
ウィーンウィーンという音はしばらくすると遠ざかって行った。
天井が黄色く光ったのは、車に付いている黄色い回転灯のせいだった。
何日かして父が「はたらくじどうしゃ」という絵本を買ってきてくれた。

翌日僕はスケッチブックを手に、冒険を再開した。
今度は迷わないように地図を作りながらだ。
漢字は書けないが地図は書けた。
二本の線を引くだけで、道っぽくなり交差点に来ると忙しく道を分岐させた。
半日ほどで、家の周りをマッピングすることができた。
今度は東へ行けるとこまで進んでみる。
家の裏手は、低くなっていて、戦前は沼があったそうだが今は埋められて工場や住宅が建っている。
細い路地に入ると庭付き一戸建てが並ぶ静かな住宅街に入った。
一本道でつまらない。
スケッチブックにはしばらく二本の直線が引かれるだけだ。
そして、ぐるっと回って元の場所に戻ることができた。
「へ〜ここに戻るのか〜」
道と道がつながると妙に楽しくなった。

次の日、昨日の場所のさらに奥へ進もうと冒険を開始する。
紙とインクのいい匂いがしてきた。
そこは印刷会社だった。
志村に凸版印刷という大きな印刷会社があったから、その下請け会社がこの辺には多い。
印刷会社の横で僕と同い年くらいの女の子数人がゴム飛びをしていた。
女の子は細長く引っ張られたゴムを器用に足を絡ませて飛んでいく。
見ているうちに僕もやりたくなってしまい、「いれ〜て〜」と言ってやらせてもらうがゴムが足に絡まるだけでうまくできなかった。
そのうちに女の子たちから追い出されてしまった。
ゴム飛びは女の子だけの遊びらしい。

何日もマッピングを続けているとある日、川にたどりついた。
僕は川というものを生まれて初めて見た。
しかし、生活廃水や工場廃水が流れ込み、コンクリートに囲まれていて、家の近くにあったドブが大きくなっただけのように見えた。
それに鼻がひん曲がりそうな臭いがする。
この川はどこに流れるのだろう?
と考えているとそこへ小学生が3人ほど僕に興味を示して近付いてきた。
「おい!何やってんだよ〜」
僕は聞いたことも無い罵声に驚く。
スケッチブックを無理やりはぎ取られた。
ものすごく不安になったが「なんだこれ?」と言ってすぐに返してくれ、どこかへ行ってしまった。
物心ついたばかりの僕にとっては、小学生もかなり大きく見えた。
僕は遠くまで来ると、知らない人たちがいて、怖い思いもすることを知った。
「なんだよ〜」と独り言を言いながら冒険は諦め自宅へ戻った。
 
(あの時の川、今は埋められて暗渠になっています。あの時大河のように思えましたが今見るとドブ川だったんだなあと思い出します。)

次回予告
母が祖父や父の会社で働くことになり、僕は保育園に行かされることになりました。
第五話 保育園