幻想編

第十四話 四者面談

登場人物紹介 首都高速用語解説

前回までのあらすじ…。
居酒屋を改築して、その店で働くことになった僕。
私生活では泥棒に2度も入られる波乱ぶり!
初めての店長代理、玉ちゃんと最後まで一緒に仕事をしました。

幻想編とは…?
居酒屋で働いていたときのことについて書いていきます。

2000年2月7日(月)
「江戸川区に2号店出すよ」
時々店長は、予想もしないことを口にする。
かず:「へえ〜そうなんですか、がんばってください」
と僕はまるで他人事のように返事をした。
店長:「違うよ、頑張るのは君だよ〜」
かず:「へ?俺?」
店長:「そう、新人アルバイトの教育係をやってほしいんだ。もちろん君が店長でね」
かず:「はあ〜?そんなのできないですよ〜」
店長:「大丈夫だって〜、ここの店長できたじゃ〜ん」
僕はまたしても店長に強引に決められ、2号店の店長に大抜擢された。

え〜絶対無理無理!僕の能力は限界だよ。人の上に立つって大変なんだから〜。下でこき使われてたほうが絶対楽!
なによりせっかく仲良くなった玉ちゃんと離れて仕事するなんてやだ〜。
僕はまたダビングしたテープを玉ちゃんに渡すと、玉ちゃんは喜んでくれた。

2000年2月9日(水)
「え〜ほんとうですか?はい、はい、え〜、分かりました」」
店長は受話器をガチャリと置くと、神妙な面持ちで話し始めた。
かず:「何かあったんですか?」
店長:「うん、むつみが自殺未遂したらしい」
かず:「ええ〜、うそ〜!信じらんない!ほんとですか?」
店長:「今日、上野、むつみ、婚約者、むつみさんの親で話し合いをすることになったんだ」
かず:「なんで上野君まで?」

店長によると、自殺未遂の経緯はこういうことだった…。
数日前の店内。
むつみ:「ねえ上野君お店が終わったらどこかへ行こう!」
上野:「いや、勉強がありますから…」
むつみ:「ねえ、お願いだからさあ」
上野:「だめです」
むつみ:「ちょっとだけいいじゃない」
上野:「うるさい!」
むつみ:「…」

むつみさんはがっくりと首を垂れて、僕の近くへ寄ってきた。
むつみ:「かずさん、私、上野君に怒られちゃった。もうやめますね」
かず:「え〜?やめるって、この店を?」
むつみ:「店長!私今日でこのお店やめますから」
店長:「は?」
むつみさんは、服を着替えると店を飛び出して行った。

かず:「上野君さあ、彼女は君のことが好きみたいだよ、なんとかしてやれよ」
上野:「いいんです。しつこい女はほっとけばいいんです」
上野君はグラスをキュッキュッと磨いて動揺を隠していた。

むつみさんがおかしくなったのはそれからだった。
上野君がバイトに来る日にむつみさんは来店し、いつも別の男を連れてきていた。
むつみさんは上野君を嫉妬させ、なんとかこっちを振り向いてくれるよう最後の努力をしていたのだろう。
でも、上野君はむつみさんを冷たくあしらうだけだった。
かず:「おい、ほっといていいのか?彼女を救えるのはお前だけだぞ!」
上野:「ほっときゃいいんです。あんな女…」

そして、むつみさんは自分の恋愛がうまくいかないことにイライラし、最後の決断をする。
恋愛もしないうちに、婚約してしまった人とは結婚したくなかったらしい。
逃げるものは追いたくなり、寄ってくるものは追い返したくなる。
人間の心理とは実に複雑だ。

むつみさんの自宅…。
むつみ:「私、もうだめだ〜。上野君…」
むつみさんはカミソリを手首に当てるとスーっと引いた。
手首からは赤い血が流れ続けた。
たまたま立ち寄った母親がむつみさんを発見し、病院に運び一命をとりとめた。

今日、2000年2月9日(水)
上野、むつみ、婚約者、むつみさんの親で話し合いをすることになった。
むつみさんを中心に修羅場になることは確実。
僕は、自分が係わっていないことに正直安堵した。

上野君がうつむいたまま店に入ってきた。
むつみさんが自殺未遂をしたことにショックを受け、かなり憔悴している
僕は上野君がむつみさんをぞんざいにした結果なので、自業自得、身から出たさびだと思った。
でも、自分に置き換えると、彼がかわいそうだった。
店長:「今日も話し合いで店を空けるから、頼んだよ」
かず:「はい、ご心配なく」
店長:「終わったら戻ってくるけど、助っ人は誰がいい?」
かず:「玉ちゃんがいいです」
店長:「そうか、連絡入れとくよ」
僕はまた玉ちゃんとラストまで仕事をしたかったのでこう答えた。
かず:「彼は今日落ち込んで、夜眠れないだろうから、店長が一晩中一緒にいて励ましてやってください。お店のことは僕にまかせて大丈夫です」
僕が上野君を励ましてやりたかったけど、店長のほうが付き合いが長いので、店長に任せることにした。
それに、店長が戻ってくると、玉ちゃんと最後まで一緒に働けないと思った。
僕は父に連絡し、車を持ってきてもらって、帰りの準備をした。
これでバスがなくなっても帰れる。

ラストオーダーが終わり、お客さんが全員帰るとチーフも帰り、店には僕と玉ちゃんだけが残った。予想通りの展開になった。
売り上げの計算はバッチリ!
今日はすぐに玉ちゃんと一緒に賄いを食べることができる。
かず:「カラオケもうすぐだね」
玉ちゃん:「うん、楽しみだよ〜」
かず:「ちょっとさ〜みんなに内緒で写真撮らない?」
玉ちゃん:「いいけど?」
かず:「それじゃあ、キッチンに立って〜」
玉ちゃん:「こう?」
かず:「う〜ん、なんか足りないなあ、そうだ!鍋持ってみて」
玉ちゃん:「キャハハハ…、どう似合う?」
かず:「似合う似合う最高だよ」
鍋を持った玉ちゃんはコミカルでかわいい。
かず:「こんなとこチーフ見られたら大目玉だろうな」
玉ちゃん:「フフフ…そうですね」

僕は車から三脚を取り出すと、カメラをセットしセルフタイマーをONにした。
かず:「ほら、二人で撮るよ」
玉ちゃん:「え?待って…」
玉ちゃんは僕の腕を引き寄せると、自分の腕を回した。
ドキッドキッ…。
僕の膝が玉ちゃんの胸に触れる。
顔が引きつる〜。
僕らはいろんなポーズで写真を撮った。
閉店後の夜の居酒屋…。
そこは僕らの撮影スタジオだった。
カクテルを作ろう! その8 ウォッカライム
ラージグラスを用意します。
氷とウォッカを45グラスに入れ、カットした生ライムをグラスにひっかけます。
これがカクテル?と思えるほど簡単なカクテルです。
僕は今日の事件をきっかけにむつみさんのへの思いが完全に冷めてしまいました。
かわいそうだとは思いましたが…。
それよりも玉ちゃんと2回目の居残りはかなり盛り上がりました。
そして、初めて一緒に車で帰りました。

次回予告
いよいよ連休の翌日がきました。泥棒との決戦の日です。
絶対捕まえてやる。
お店ではいつもランチに来てくれる女の子と仲良くなりました。
第十五話 決戦の日とお嬢様