慕情編

第二話 俺のせいだ…

登場人物紹介 首都高速用語解説

慕情編までのあらずし…。
父の会社を飛び出した僕は職安でみつけた仕事を始めます。
バブル終盤の頃ですが、まだまだ人手不足ですぐに採用になりました。
首都高速のPAを回って主任の助手をやったり、料金所の清掃をしたり、免許を取得したり社会人としてそれなりの苦労を重ねてきました。
恋は小から大まで数え切れないほどしました。
2回目の3号線全止め工事が終わり、現場と事務で僕の仕事は山のようになっていました。

慕情編とは…?
僕がS建設で恋した人のことについて書かれています。

1995年1月。

全止め工事の報告書作成もようやく終わり、オオノさんも仕事に慣れてしばらくたった頃のことだ。
外回りだった僕はPAの保守の写真を「お願いします」とだけ言って彼女に渡していた。
照れくさかったのもあったが、彼女が親しみにくそうだったからだ。
それに周りの目も気になっていた。
年上ばかりの仕事仲間たちは、過去に僕と女の子が喋っていると茶化したり、変な噂をしたりした。
僕はもうそんな思いは二度としたくないので、彼女とはできるだけ仲良くしないように決めていた。
しかし、それがかえって仇となってしまった。
もっときちんと丁寧に教えていれば、彼女を苦しめることは無かったのに…と思う
(そのことで後で彼女に謝ったらそれは違うと言われたが、それは彼女のやさしさだろう)

ある日、内勤の日に事務所の向かいにある大升というラーメン屋で昼食をとっていると所長と彼女が入ってきた。
かず:「こんちわ〜」
所長:「お、イケダ君もいたのか」
彼女は恥ずかしそうにカウンターの僕の隣に座った。
言葉は無い。

彼女はラーメン屋なのにカレーライスを注文。
ここのカレーは辛いんだよなあ、大丈夫かな?と心配になってしまう。
そしてやっぱり彼女は食べる速度が遅くなってきた。
僕は可愛そうになり「無理しないで残しなよ」という気持ちで「そのカレー辛くて食べられないでしょ?」と言った。

彼女は、お店のマスターに気をつかったのかニコリと笑っただけだった。
そして、再び食べ出したが結局残してしまったようだ。
僕はその残りを食べたいなあと思ったが、所長に勘繰られるのも嫌だったし、大人のすることじゃ無いと思ったので、我慢した。
彼女は所長と仲良く話をしていたので上手く付き合っているようだ。
所長は厳しすぎるところもあるので心配していたが、オオノさんなら大丈夫だな…。
と思い店を出た。
僕は楽しそうに話をする所長が羨ましかった。

しかし数日後…。
男女共用のトイレに向かう途中の廊下でシクシク泣く声が聞こえてくる。
げ!ひょっとして雑司ヶ谷墓地のおばけ?
雑司ヶ谷基地に墓地のおばけ?(う〜ん字が似ている)
ところが、オオノさんが洗面台にうつむき泣いていて、背中をイイズミさんがさすっている。
(イイズミさんはオオノさんと同期入社の女性)

「どうしたの?」と声をかけると彼女は走って外に行ってしまった。
「実は…」とそばにいたイイズミさんが事情を説明し始めた。
彼女は仕事を中々覚えられず、所長に「死ね!」と言われたそうだ。
そんなことを言われた経験は無く、かなりショックだったに違いない。
うちの所長は以前から信長に似た鬼だと思っていたが、ほんとにそうだった。
所長に怒るよりも、自分が彼女に仕事を丁寧に教えていなかったからだと思った。
俺のせいだ…。
僕はなんとか彼女を助けたいと思い始めた。
1995年1月の出来事
1.1
ロシアが独立を主張するチェチェン共和国の首都グロズヌイを制圧したと発表したが、チェチェン側武装勢力は戦闘を続行。
7/30和平文書調印

1.5
93年4月から8月にかけ、埼玉県北部に住む愛犬家ら4人が失踪した事件で、うち1人の遺体の一部が見つかり、同県江南町のペット業者の元夫婦を死体遺棄容疑で逮捕。
のちに殺人で再逮捕。

1.17
午前5時46分、淡路島付近の深さ14キロを震源とするM7.2の直下型地震が発生、兵庫県を中心に建物の倒壊が相次ぎ、交通、通信、電気、水道などのライフラインが寸断された(阪神大震災)。
気象庁は「平成7年兵庫県南部地震」と命名。
12/27消防庁発表、死者総数6,308人。

1.21
成田空港問題で国から謝罪の文書を受け取った三里塚・芝山連合空港反対同盟小川派の小川嘉吉代表が反対運動終結を表明。

1.30
米国立スミソニアン航空宇宙博物館が5月から開催予定の原爆展を中止。
退役軍人団体や議会から「軍国日本に同情的すぎる」と批判されたため。

1.30
文藝春秋の月刊誌「マルコポーロ」2月号の、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)は作り話だったとする記事にイスラエル政府やユダヤ人団体が抗議していた問題で、同社は「記事に間違いがあった」として編集長らを解任、同誌を廃刊。2/14社長が辞任
1995年この一年
社会
阪神大震災。
オウム真理教事件。
信用組合・銀行の破たん・不祥事相次ぐ。
いじめ事件が倍増。
パソコン用基本ソフトウィンドウズ95日本語版が発売され人気を呼ぶ。

『出典:別冊朝日年鑑 早わかり20世紀年表 朝日新聞社』

次回予告
1月のある日、イイズミさんとオオノさんと僕の3人で残業をしました。
意気投合した僕らは居酒屋へ行きます。
都合により第一話でお知らせした「居酒屋にて」は次回に延びました。
第三話 居酒屋にて