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人間の手先は1/1000ミリを感知する能力を有しているらしい。最新の技術を駆使したコンピューター制御の機械でもそれを可能にすることはできないようである。人間はそのような特殊技能をもっているのである。そしてそれは訓練次第で重い物をもつこともできるのである。関節は筋肉の収縮によって動かされているというイメージは余りにも基礎的な医学として学んできた為、それに疑いをもつことはないだろう。実際、筋肉が収縮している様子を皮膚上からも観察することができるので小学生が見てもそれはあきらかなように思う。
しかし単純に筋肉が収縮しただけで手足を微妙に動かせることができるだろうか?
筋肉の収縮とは一方向に引っ張り一方向に伸びるという運動だけである。頭頚部のように細かい筋肉が複数あるところならもしかするとそういうこともありえるかもしれないが、単純な上肢の関節として存在する肘関節は屈曲をする為に三つの筋肉しか関与していないとされている。それは上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋である。この三つの筋肉だけで1/1000ミリの誤差を感知する手の動きをつくりだす為に働いている肘関節を動かすことが本当に可能なのだろうか?

私にとってそれは学生時代からとても素朴で単純に思える疑問であった。あまりにも単純すぎる為、そのような視点で書かれた本はないようである。上肢のエコー画像を詳細に観察していると筋肉の線維は単に収縮しているだけではなく回転するような動きをしている。この動きにはやはり意味があるのではないかと思い研究してみることにした。
単純な肘関節を選んでモデルにした理由は、単純であれば、解明しやすいのではないかと考えた為である。そしてなにより上肢は検査をするのに男女問わず出してもらいやすく検査しやすいところであり、エコー画像も撮りやすいからである。7.5MHのリニアプローブを使ってプローブの先にカプラをつけ観察した。エコー画像も静止画は多く存在するが動的画像はあまり紹介されていない。もちろん本で動画を紹介する訳にはいかないからであるが、現代はホームページという動画も扱えるものが存在するので動的画像をホームページにアップした。その動きの詳細をご参考にして頂きたい。

また単純に思える肘関節を観察することで他の関節の動きも予測することができると考えた。それを臨床的に応用できる可能性がある。ここで書かれていることは学問として学んだ筋肉学に対抗するものではない。あくまでも私見であり臨床で役立つ可能性のある理論を私なりに展開し実際の臨床に応用しようと考えた。専門家が見て間違っていると思われるところがあればご報告頂ければ幸いである。

簡単な模型図を参考にしながら、その仕組みを考えていくことでそれを解明し、臨床に役立てようと考えた。マニピュレーションを仕事にしている方にとっても、この考察は役にたつのではないかと思っている。それはなぜマニピュレーションが効果があるのかという一つの回答になると予測されるからである。




倒れた木を倒立させようとした場合、通常なら点線の位置あたりにロープをかけ引っぱるのが理想的な位置になるだろう。

しかしロープを根元にしか巻きつけてはいけないという条件があった場合を想定して頂きたい。この状態が肘関節の構造と類似しているのである。ロープは上腕二頭筋が担当することになる。それは物理的に考えても非常に不合理な倒立のさせ方である。しかし肘関節はいとも簡単にそれをやっているのである。ロープが上腕二頭筋であるとするなら180度〜90度の間、かなり大きな負荷が牽引する力となってかかるはずであるにも関わらず上腕二頭筋の筋力が収縮するのは90度以降ということになる。

人間の手は1/1000ミリを感知する能力をもっているが、これを感じとる為には手全体も微妙な動きをする必要がある。その構造から考えても根元に巻きつけたロープの張力だけで肘関節を動かしているとは考えにくい。例え上腕筋が補助となって二本のロープでひきあげてもそれを実現させるのは難しいだろう。ロープを引っぱるという構造だけなら木の先端を微妙にコントロールすることは難しいと考えられるのである。肘関節の場合、根元が完全に固定され、それが滑車状になっている木と考えられるが、それでも1/1000ミリという誤差を感知することはロープの張力を変化させるだけでは不可能でろう。 そこで根元にクボミをつくり根元をそのクボミに押さえつけるような働きをしながら木の先端をコントロールするようにすればロープによる張力だけではなく木の先端をコントロールすることができる。 根元の先端を固定しつつクボミと木が接触する部分を左右に移動させられるようなローラをつけて、クボミに押さえつける力を発生させれば先端を微妙に調整することは容易くなるだろう。

肘関節にもこのような構造が作られているのではないかと考え、その構造が単純模型で現せばどういう形になるのかを想像し、肘関節の構造の解明に努めた。 そして理論だけではなく臨床的にそれが正しいかどうかをある程度証明する必要がある。
肘関節のエコー画像と筋力検査を用いて人間の身体の構造を再考した。



上腕二頭筋は上図の青色の点線の位置で赤斜線の円のところから引っ張る形になる。木の根元の先端を上下に働く力をかけることで木の先の制御がしやすくなると考えられる。また それが左右にぶれないように周りを固定させる必要がある。ロープを上下にさせる力が働けばロープは左右にその力を逃がそうとする力も働くからである。この構造の良いところはロープを上下させれば、引っ張っているAの張力を変化させないで梃子の原理で力を得ることができる。 また大きな負荷がかかってもそれに対処できるようなトルクのある力が発生するだろう。

 更に上から張力を発生させるロープを眺めた場合、クボミと接触している木の支点が横にズレれば、木に縛ってあるロープと引っ張るAの距離が短くなり、ロープの木を倒立させようとする力は更に強くなる。180度から90度の間、上腕二頭筋があまり収縮しないといのは支点を上下や左右にズラせることによって距離を変化させることでロープの長さが変わり、結果的に木の先端が上にあがったり下がったりする力を得ているからである。この場合、引っ張っているロープは一定の張力を保ったままにして引っぱる位置さえ変えなければ結果的に木は持ち上がるだろう。しかも微妙に持ち上げることができる。これは自動車のローギアのような働きで大きなトルクを発生させる構造になっている。また上にあげた場合横にズレない為の土台として上腕三頭筋、腕橈骨筋、長短橈側手根伸筋という伸筋群も関与していると考えられるのである。これも実際にやってみるとわかるが、上腕三頭筋は肘関節の曲げ始めで筋肉が膨隆しているように感じられ、肘関節を最後まで屈曲するとあまり膨隆していないように感じられる。筋紡錘やゴルジ腱器官という説明もあるが、神経的な説明よりもっと単純な構造としての働きがあるのではないかと考えられるのである。エコー画像を参照して頂けば土台となって支えている様子がよくわかる。

この方法でしかロープを木の根元に巻きつけた場合、先端をうまくコントロールする方法はないだろう。これは木の根元付近にしかロープをかけられず、それでいて大きな応力を発生させ先端を1/1000ミリの単位で感知できる程の正確さで動かさなければならないという条件を全て満たす為の必要最小限の条件ではないかと考えられる。



しかし一般的な説明は筋肉が収縮し、関節が動くというものばかりである。この理論には再考の余地があるといわなければならないのである。下図は一般的な説明によって動く関節の動きを単純な図で現したものである。関節という支点はあるが、引っ張る(筋肉が収縮する)という能力だけでは、ロボットのような動きになってしまうのは目に見えている。ロボットダンスのような動きを人間は実際にすることができるが、自然な形で動かしている状態とはいいがたい。人間の関節には様々な動きを許容できる機能が備わっているのである。そこには単純な説明では到底説明しきれない何かが存在していると思うのが自然な考えであろう。人間はとても素晴らしい動きをするのである。それを忘れ単純な理論のみに執着すれば臨床では役に立たないのは当たり前である。筋肉は確かに収縮するが膨張もする。膨張するというのが、この考えにおいて一つのキーワードとなることを忘れてはならない。

生体の中ある器官は解放された器官ではない。皮膚に包まれ、常に圧力がかかっているのである。 解放された空間で起こっている現象とは違う動きをしていると考えられる。その中で筋肉は収縮し距離を変えるだけでなく膨張し他の器官に圧力をかけるという作用が生じる。圧力をかけられた器官は密封された中で行き場を失い思った以上の力が発揮されると考えれば膨張することで得られる筋力も一つの大きな力になるのではないだろうか?
 



関節の働きについて今まで述べられてきた話は、全て肘の支点が動かない状態を想定して筋肉の作用が述べられてきた。 しかし、肘関節を全く固定したまま動かすというのは人間の身体の自然な動きに反する動きであり、通常はあまり起こらない。理論的にはそのように動いてもおかしくないのだが、実際にはもっと違う作用があると考えた方が自然である。

理論的な話だけを考えようとするから関節の異常の原理を捉えることができないのではないかと思われる。 実際肘を反対の手でおさえ肘関節を屈曲させてみると何かを支えにしていないと反対の手が肩の伸展方向におさえられるような動きが僅かに働いてしまう。 この動きをなくさせようとすると肩関節をやや屈曲させるようにしないと手先が左図のように孤を描きながら動かすことは難しい。

 

理論的な動きは上図のような動きを想定しているが実際にはこの動きは関節の動きとして難しい動きになっている。
 

 


実際の動きは負荷がかかった時、左図のように肘関節の支点が肘関節屈曲に伴い肩関節をやや伸展するような動きをし、全体的な支点をズラせるように動くことで手掌面が肩関節に向かって直線の軌跡を描こうとする。 (手掌を前面にして物をもつ場合である)

この現象から考えても理論的な説明とどうしても一致しないところがあるのである。



「キネシオロジー 日常生活活動の運動学」 医歯薬出版
監訳者 嶋田 智明
より以下引用

*************

前腕回外位での前腕の屈曲には、回外筋であり、肘屈筋でもある
上腕二頭筋の強力な活動が関与し、回内位で肘を屈曲すると上腕
二頭筋はあまり活動せず、上腕筋の作用によって行われる。

もし、前腕を回内したままで肘を屈曲するという課題をこなすとしたら、
上腕二頭筋が肘を屈曲させるとともに回内筋が上腕二頭筋の前腕
に働く回外作用を打ち消すことが必要である。この回内位での上腕
二頭筋の作用には、1つの動作のみが必要な場合に2つの筋の活動
が関係する。上腕筋は回外モーメントを生じることなしに肘の屈曲が
可能である。なぜならこの筋は尺骨のみに付着しており、回内・回外
作用を欠くからである。前腕がいったん回内されると回内筋の補助
なしで、上腕筋のみでの肘の屈曲が可能となる。

最も強力な回外筋である上腕二頭筋は、弦が楽器の先端に巻きつく
ように前腕が回内されるときには、橈骨の先端に巻きついている。
上腕二頭筋の収縮は橈骨の先端を回し、回外させる(添付参照)
(中間位へ戻す肘の屈曲を行えば、この関係は明確になり、最も効果
的作用であることが示される)

************

ということになる。この説明で考えると回内させた場合、上腕二頭筋の腱は橈骨に巻きつく形になることを示唆している。橈骨に巻きつくというのは上図のように橈骨の尺側側に巻き込む形になり結果的には上腕二頭筋腱が橈骨側に引っ張られ弦が張ったような形になるはずである。
しかし皮膚上で触診をすると前腕回外時より回内時の方が張力が発生していない。これは上記の説明と距離的な問題が一致していないことを意味している。

腱の張力がある方が同じように筋が収縮したとしても距離だけを考えれば引き上げる力が有利に働くはずである。腱の長さは筋肉の収縮のように伸び縮みしにくいだろう。上記の説明では回内した方が腱の距離が短くなるはずである。しかし皮膚上の観察では逆になっている。そして実際の筋力は回外位の方が正常な肉体であれば徒手筋力検査をしてもあるのである。 上記の説明でも回外の方が筋力があると説明されているが、回内筋によって力が相殺されているという説明であり、全く違う観点から述べられている。

徒手筋力検査を前腕回内、回外位で確認すればこの結果が正しいことがわかる。また上腕二頭筋腱を前腕回内位と回外位で触診して頂くと回外位の方が上腕二頭筋腱の張力が発生しているのがご理解頂けるだろう。また上腕二頭筋は回外に作用しているのだろうかという疑問も成り立つ。そこにはもう少し複雑な作用があると考えられる。そう考えなければ臨床における観察とは一致しない。

では何故このような現象が起こるのだろうか?



模型図



上図のように腱の距離はあまり変化がないと考えられるので、ほぼこの図形と同様の現象が起こっているものと考えられる。距離だけを考えれば巻きついた状態の方が同じように収縮したとしても力が出しやすいはずである。
しかし逆に回外位の方が張力が発生し筋力もあがっているのである。何故なのだろうか・・・。

ここで前述した木を倒立させる図を見直して頂きたい。倒立させる時に上下や左右に働く力があったとしたら説明がつくのではないかと考えられる。つまり上腕筋、腕橈骨筋、円回内筋という上腕二頭筋腱近くにある筋肉が上腕二頭筋腱を圧迫し上下や左右に位置変換を行っているのではないだろうか?
またエコー所見を見ていると長短橈側手根伸筋や回外筋も作用しているようにみえる。長短橈側手根伸筋は腕橈骨筋を支えるような形で屈側へ入り込んでくるような動きをしている。腕橈骨筋が上腕二頭筋腱の走行を邪魔するような形でさえぎっているように見える。上腕二頭筋腱は尺側にも腱膜としてわかれているが、この腱膜はエコー像で写されるが、上腕二頭筋腱はハッキリと写っていないことに気がつく。これは長軸方向でも同様であり、上腕二頭筋からつながっているように見えるような腱は発見しにくかった。

上腕二頭筋腱が回内時、橈骨に巻き込むような形にエコー像でもなっているが、実際にはこの動きで腱は緩んでいる。距離が遠くなるのは回外位で、腕橈骨筋や回内筋が上腕二頭筋腱の走行を邪魔するようにして張力を変化させている。回外位で巻きつくような作用をする軸は腕橈骨筋や回内筋のようである。逆に回内位になり、橈骨に巻きつく形になると腱の距離は長くなり緩んでしまうようである。
これは、肘内側を短軸方向に二等分した中心より上腕二頭筋の腱は尺側よりに走っていることからもわかる。そして面白いことに前腕回外位では上腕二頭筋腱は尺側へ僅かに変位しているのを皮膚上の触診でも観察できる。つまり回外位ではより遠くを通るように上腕二頭筋腱が移動しているように思えるのである。逆に回内位では尺側にあった腱が橈側に近づいているように感じられる。

これが事実なら上腕二頭筋が回外に作用するという説明はおかしいことになる。そして回内筋で相殺されるという説明も真実ではないように思える。臨床的事実を最も自然な形で理論的に構築させる為にはどう考えた方が良いのか・・・。

重要なことは、この予測としての理論が臨床において、正しく利用できるかどうかということである。臨床的でない理論は臨床家にとって必要ない。もし間違っていれば結果として治療効果はあがらないだろう。間違っていなければ治療効果があがるだろう。

この考えの中で上腕三頭筋の存在を無視していると思っている方もあるだろう。しかし屈筋と伸筋の収縮のバランスだけで微妙な制御をしていると考えるのはあまりにも短絡的である。肘関節の最大の焦点はここにあると考えられる。この動きには肩関節の動きと上腕二頭筋の位置関係が大きく関与しているようである。

 


(画面の右側が尺側、左側が橈側)
短軸方向で肘関節を伸展位から僅かに屈曲し負荷をかけた状態のエコー画像である上腕筋と上腕二頭筋の境がハッキリし明瞭している。
上図の右は、その状態でプローブをやや下に移動させた状態であり、上腕二頭筋の腱がやや尺側に移動しているのがわかる。
左図は長軸方向でとらえたエコー像である。

上腕二頭筋の腱がイメージどおりならそのまま橈骨の尺側あたりにつくはずであるが、腕橈骨筋がそれをさえぎっているように見える。
左側は上腕筋の一部とその上が上腕二頭筋腱である。橈骨につくはずの上腕二頭筋腱の端が不明瞭になっている

短軸方向の図

この位置あたりに上腕二頭筋腱がくっつくはずである。
腕橈骨筋が上からおおいかぶさっているのがわかる。円回内筋も押さえるようにしている。
また長短橈側手根伸筋も屈側までおおいかぶさっているようになる
二頭筋腱停止部あたりには腕橈骨筋、円回内筋、長短橈側手根伸筋、回外筋等の筋肉がまわりから圧迫されるようにして橈骨に停止している。
そして手首を回内外、伸展、屈曲、外内転させるとこれらの筋肉が緊張し腱の位置を変化させると考えられる。
 
 
上腕二頭筋屈曲側で腕関節回外、回内のエコー画像(動画)
 
 

手首を回内させているのか回外させているかによっても肘関節屈曲の筋力が発揮できるかどうかが決まる。また肩関節を内旋するか外旋するかによっても最大の筋力を発揮できるかどうかが決まってくる。つまり筋力を発生させるには腱の位置的な問題が大きいことになる。カイロプラクティックでいわれているサブラクセーションで捉えられる変化は通常、このような腱や筋肉の位置的変化による筋力の低下や偏りが問題になっているのではないだろうか?
筋肉や腱の位置的関係を サブラクセーションと呼ぶなら、それをマニピュレートすることは可能でろう。骨そのものを動かすという考えではなく腱、筋肉、靱帯の位置を僅かに変化させるという行為で筋力のテンションを変化させ関節への正しい筋肉の働きをさせる方法だとすれば、ぎっくり腰のような疾患が目にピュレーションをした結果、劇的によくなったという例も納得がいく。
また筋、腱の位置異常があることによりその関節の筋力が変化しているなら、そこには一定方向に曲がりやすくなるのも理解できる。一定方向に曲がっている状態を皮膚上から観察すれば、骨が曲がっているように感じられる。それを動作させればモーションパルペーションを行った時のようにその角度にも左右差がでてくるだろう。

これらをマニピュレートするのは主動作筋の両端にある腱の支持力を徒手によって高めることで筋の能力を高められる方法でもあると考えられる。また主動作筋の位置や腱の位置に僅かな変位が起こっただけでもその筋力はあきらかに低下する。これを証明するには正常な関節に伸縮性のないテープを貼れば、それだけでも筋力は落ちることからもあきらかである。つまり正常な組織に余分な刺激を与えれば筋力は低下する。しかし異常な組織に刺激を与えればめざましく筋力はあがるという法則どおりである。刺激する部位は皮膚上で良いが肘まわりの筋や骨の位置関係をイメージングできる人が行うとその差がもっとハッキリあらわれる。
マニピュレーションがうまい人はイメージングがうまい人であるともいえる。もちろんテーピングでも鍼刺激でもイメージングがうまい人の方が治療効果も高く、このような実験もスムーズに行うことができるのである。
人間の意識についても再考する必要がある。筋や腱のマニピュレーションでも決して力を必要としないのは、そこにイメージングが関与しているからであり、実際には骨を動かそうと思った場合、イメージングの優れた人ならある程度それを可能にしてしまうのではないかと私は考えている。しかし骨の移動はそれだけでも特殊能力に近いのではないだろうか?
それより軟部組織を中心にマニピュレーションを考えていくと思わぬ治療効果があがることがあり、より臨床的で現実的である。





手首を内転、外転、屈曲、伸展、回内、回外させながら肘関節を屈曲させる
このパターンをしながら肩関節を内旋、外旋させた時も観察する。

肘関節の屈曲に関して上腕二頭筋の腱の長さが変化するような運動を手首と肩関節でさせることで肘関節の筋力があがるのか低下するのかを観察すると肘関節のみで屈曲しているのではないことが理解できる。
徒手筋力検査ではこのような運動は代償運動と呼ばれ関節の位置的な問題をしっかり把握していないと正しい徒手筋力検査は行われないとされている。

これは筋力検査においてとても重要な事実であり、マニピュレーションを行う術者もそれをもっとハッキリ意識する必要があるだろう。筋肉の長さが変化すれば筋力は変化するのである。逆にこれを利用した治療法ができることになるだろう。




肘関節の上腕二頭筋腱の皮膚上に伸縮性のないテープを貼った図であるが、腱の尺側側に貼った場合と橈側側に貼った場合ではその筋力に差がうまれている。また前腕回外位と回内位でも腱の尺側に貼った場合と橈側に貼った場合での差がうまれている。
この事実によって刺激の与えるポイントと異常点の認識というのが重要な診断ということになってくる。それが決まれば大きな力を加えないでもあきらかな変化が望めるのである。刺激が極小の方が患者と術者に大きな影響を与えないので組織に対して侵襲が少ないことになる。鍼刺激も皮膚の表面を接触する程度でも充分であることに気づくのである。

 



 
 

 


大型クレーンの構造を単純な模型で観察するとアームの位置と物を持ち上げる時に引っ張るワイヤーの位置関係が上腕二頭筋の構造と似ているのが理解できる。アームの根元からもう一つのアームがでてワイヤーの距離をとるような構造をしている。また上に持ち上げる力のみではなくある程度の操作性を考えた場合、アームの固定力や位置関係というのが重要になってくるだろう。クレーンを使う熟練者も先端を微妙に操作するのは非常に難しい。しかし人間はけん玉のような重りがぶら下がった状態であっても慣れればそれをうまくコントロールしてしまうのである。機械的な構造から考えると人間の身体にはもっともっと複雑な仕組みがあってもおかしくない。それは脳で電子制御されている機械と考えただけでは成り立たないものがある。脳の制御だけではなく、それを伝える器官の微妙な物理的構造があるはずである。そしてそれを制御する脳の機能も有していなければならない。
ソフトがよくできていてもそれを動かせる能力のあるコンピューターがなければ何の役にもたたない。逆にコンピューターがどれだけ処理能力が高くてもソフトが駄目であれば能力を発揮しないのである。これらは別々に考えるから臨床的でなくなるのである。

そしてもし今までの説明のとおり、上腕二頭筋が主動作筋であり、張力だけで関節を曲げていたのなら上腕二頭筋は10年もすれば破綻しているに違いない。破綻しない為の構造があると考えた方が自然である。

図のように肘には大型クレーンの模型図の両方矢印でひかれた赤線部分がワイヤーがとおる位置であるが、本来アームに沿わせてワイヤーを巻いても良いはずであるが、大きな力がかかるクレーンの場合、ワイヤーを巻き上げる滑車の位置はアームの上を通らないで延長されたもう一つのアームの上を通るのである。もしこの延長されたアームの距離が変わればそれだけでワイヤーを巻かなくても物を持ち上げる位置は変化する。

 





 



一つの動きに対する身体全体の重心をこの図は単純にあらわしている。身体全体を考えた場合、肘関節を動かそうと思っただけで対側の足になんらかの力がかかる。これは大型クレーン(小型でも用いるが)で使われるビーム(アームのある方向へ傾いてしまわない為の支え)のような働きをしているのである。肘から先と膝から先に要穴と呼ばれる重要な穴が多数存在している理由もこの考えから納得がいくだろう。例えば肘関節屈曲に関して腕橈骨筋が上腕二頭筋腱の長さを伸縮させる働きをしていると考えると腕橈骨筋上に存在する手の三里穴は上腕二頭筋の筋力を高める穴でもあると考えられる。また曲池穴は腕橈骨筋の停止部の近くでもある。物を持つという行為に上腕二頭筋の収縮が大きく関与しているのはあきらかなことである。物を持てばビームの役割をする対側の足とのバランスが重要だとわかるだろう。
バランスを考えた場合、手足の伸側、屈側の一部の緊張は必ず全身へ影響を与え姿勢や動作に異常が認められるようになるはずである。手足のどこかに一部の緊張があれば体幹部や他の部分のどこかと関係が深い緊張が現れているはずである。




 

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