中国レポート


先日、中国のマスコミによる韓国誤審関係の報道に対して韓国が抗議した、というニュースがありましたが、韓国の疑惑に対する中国のマスコミの報道姿勢はかなり厳しいようです。

実際のところ中国ではどんな感じなのか知りたいな、と思ってたら、北京在住の方からレポートをいただきましたのでご紹介します。

北京で見たW杯観戦記

中国は今回初めて「世界杯」(W杯)に参加したこともあり、メディアは全試合を地上波で流すなど、並々ならぬ力を入れてこれに臨みました。金銭的に余裕のできた中国人サポーターは「国家隊」(中国チーム)を応援するため、数万人も韓国に乗り込みました。

今回、CCTV(中央電視台のスポーツ専門5チャンネル)で全試合を観戦して、また『体壇周報』『足球』『球報』などのスポーツ各紙を購読して、メディア、マスコミの主要関心事項が大きく変化していくのが分かりました。次の3つの段階があったように思います。

第1段階は、予選リーグの時期です。中国チームが1勝もできず、また1点もとれなかったのは何故か、勝ち進んだ日本や韓国との差異はどうして生まれたのか、今後欠点をどう克服していくべきか、といったことが主要話題でした。 この段階では、出身地の異なる選手同士のまとまりが悪く組織的なプレーができない、敢闘精神がないなどといった中国チームの弱点や監督の責任を追及する報道、また日本や韓国を称え両国に学ぼうといった報道がほとんどでした。

第2段階は、決勝トーナメント韓国・イタリア戦直後に始まり、韓国・スペイン戦のあとピークを迎えました。過熱ぎみの報道は韓国・ドイツ戦の審判員を西欧人がつとめることになったと報じられてようやく落ち着きました。この時期、スポーツ各紙はFIFA審判の「黒哨」(黒いホイッスル)問題、韓国チームの背後にある疑惑問題を書き立てました。 なぜ韓国戦に限って不可解な判定が多いのか、勝敗にからむ決定的な誤審がポルトガル・イタリア・スペインと続くともう偶然とは言えないではないか、韓国は開催国の立場を最大限に利用して金に弱い非西欧人審判を買収し、韓国チームに有利な判定をさせているのではないか、といった疑惑です。 ただし、人民日報社や新華社といった国を代表する報道機関は慎重な態度をとっていました。

6月16日の韓国・イタリア戦の実況が終わって番組を締めくくる際、誤審が勝敗を分けた試合を見てショックを受けたのか、CCTVキャスター劉建宏氏の顔から笑みが消えていました。 彼の最後のコメントは意味深長な「恭喜韓国隊、同情意大利隊」(韓国チームおめでとう、そしてイタリアチームに同情します)というものでした。

キャスターが動揺するさまを見て、視聴者の一人である私の中に突如疑惑が生まれました。 前回の韓国・ポルトガル戦でポルトガルチームに2人もレッドカードが出て、11対9の数的優位さから韓国チームが勝ったこと自体不公平だと感じていましたが、再び不公平な判定の結果韓国が勝利を収めるさまを目撃して、これは偶然でない、裏に何かあるな、と直感しました。 おそらく多くの中国人もそう考えたのではないかと思います。

その夜、「新浪」や「捜狐」など有名Webサイトの「世界杯」コーナーにアクセスすると、中国人サッカー評論家のコメントや全世界から集めた有力マスコミの論評、中国人「網友」の発言などが満載されていました。この時期(イタリア戦以降、スペイン戦以前)における中国人論評の特色は、韓国チームが「黒哨」を利用して勝ったとする「倒韓派」の発言が優勢ではあったものの、同チームが主として自らの実力で勝ったのだとする「保韓派」の発言も少なからず掲載されていたことです。 またこの時期、イタリアのトッティに対して誰かがレーザーポイントを使って妨害した疑惑や、最後まで体力が落ちない驚異的スタミナは興奮剤によるものでないかといった疑惑まで報道されていました。

中国というと、1989年の「天安門事件」のときのイメージから情報を制限する国というイメージを持っていましたが、今回のW杯がスポーツ=非政治だったということもあってか、全世界に張り巡らされた情報網からW杯に関するさまざま情報が集まってくる「情報大国」に変貌していました。勝った韓国側の反応や負けたイタリア側の反応だけでなく、ヨーロッパや南米の主要スポーツ紙の論評までもがすぐさま中国語に翻訳されて入ってくるという状況でした。

6月22日の韓国・スペイン戦の後、中国の報道姿勢が大きく変わりました。線審の誤審という確たる証拠を手に入れたメディアはライン割れしていなかった問題シーンを何度も流し、本格的にFIFA審判の「黒哨」批判に乗り出しました。 そしてスポーツ各紙に至っては、「大韓民国杯?!」(韓国カップか?!)、「韓国黒哨譲全世界絶望」(韓国、黒哨は全世界を絶望させた)、「記住這幾張臉」(この数人の審判の顔をしっかり刻み込もう)などと報じるようになったのです。

中国のメディアが全試合を地上波で見られるようになったのは鄭夢準FIFA副会長の配慮によるものと伝えられていますが、その中国がなぜ韓国のきらう誤審批判に踏み切ったのか。以下のことが考えられます。

  • 2008年北京オリンピックを控え、同様の疑惑の目で見られないよう韓国と一線を画す必要があった。
  • 誤審の犠牲になったイタリアやスペインなど西欧諸国と組んでFIFAに圧力をかけることにより、存在感の薄かった中国の存在を誇示できる。
  • 中国サッカー界も逮捕者が出るほど「黒哨」問題が深刻化しており、それを嗅ぎ分ける能力が長けていた。
  • マスコミが中国チームは1勝できると甘い期待を抱かせたものの、結局1点すら取れなかったことに起因する国民の不満を解消する必要があった。
  • 北朝鮮人の大使館・領事館飛び込み事件が相次ぎ、韓国への苛立ちが高じていた。

マスコミの論調から「保韓派」が消え「倒韓派」が圧倒するようになったとき、民衆レベルで「きたない手を使って4強入りした韓国人は許せない」といった怒りの感情が表面化しました。 中国人の深層心理の中に秘められていた韓国人に対する不信感、差別意識が沸き起こったのではないかと思います。なかにはフランスのジダンがW杯前に韓国との親善試合で負傷したのは韓国が優勝するためにわざとやった陰謀だ、と言う人さえいました。一方、トルコに負けて8強入りができなかった日本チームに対しては潔い負け方だと非常に好評でした。

第3段階は、6月25日の韓国・ドイツ戦以降です。世界的な圧力を受けて、FIFA会長自らの指示により、準決勝(韓国・ドイツ戦)と決勝の審判をほとんど西欧人で固める措置が講じられました。 審判が不公平な判定をする芽を事前に摘み取り、本当に実力だけで勝敗を決着させるためです。

ドイツが韓国に1対0で勝ったのち、CCTVの劉建宏キャスターは「ようやく本来のあるべき秩序に戻った」とコメント。そして彼の顔にようやく笑みが戻ってきました。スポーツ各紙の主要関心事項はどのチームが優勝するかといった本来の姿に戻っています。一方、外交関係の悪化を避けるため、国家体育総局は「世界杯」報道が過激にならないよう配慮せよとの通達を出したと伝えられています(記述:2002年6月26日)。

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